現金はゴミか?(1)米ドルの待機資金はどこに置いておけばいい?
世界はコロナ・ショック後に大きく変化した。
人々の懸念の方向は供給ショックや財政に起因するインフレ方向へと転換したのである。
時代は変わった。
以前は市場に何らかのショックが走れば、デフレやディスインフレを心配したものだが、今では必ずしもそうとは言えなくなった。
では、インフレの時代にはどうなるのだろう。
物価連動債は米国で1997年から発行が始まった。
まだ歴史の浅い投資対象だ。
したがって、ボルカー・ショック時の挙動を見ることもできない。
TIPSの歴史はディスインフレの時代に重なっている。
つまり、TIPSの真価は今まさに初めて問われ始めたに近い。
今年の下げ局面での物価連動債
ここでは、インフレ的な新大統領の就任前後を回顧しよう。
米TIPSファンド(青)、米国債ファンド(黒)、S&P 500(赤) (大統領選前後)
新大統領の横紙破りな言動に米市場が音を上げたのが2月中旬。
TIPSも名目債も横這い、やや上昇だろうか。
その後、TACOを迎えると、米国株は勢いよく上昇・回復し、最高値を目指すに至っている。
ここで目を引くのは、TIPSや名目債の安定感ではないか。
6-7年という少し長めのデュレーションだが、名目金利も実質金利も大きくは動いていないということだろう。
この背景にはいくつか考えられよう。
- インフレ懸念がくすぶる中で、FRBが様子見を続けている。
- 関税は短期でインフレ要因、長期でデフレ要因。
- 市場の予想がインフレにもデフレにも傾きにくい。
つまり、実質金利も期待インフレも動きにくい状況にあったのだろう。
米物価連動債は一考の価値あり?
今後、米政策の経済への影響が顕在化してくれば、経済とともに金融政策の方向性も見えてくるだろう。
いまだ予断を許さないものの、まずは最初に述べた2つのナラティブをもう1度見直しておこう。
- 経済・市場が急変すれば米国が量的緩和に逆戻りするかもしれない。その場合、長めの債券が恩恵を受ける。
- 米インフレが再燃するかもしれない。その場合、長期債は打撃を受ける。
まず、米国が利下げや量的緩和に動けば、長めの債券やMMFが恩恵を受ける。
(MMFへの恩恵は小さく、その後の利回りは低下する。)
仮に、期待インフレがこれまでと同様安定しているようなら、実質金利も下がることになり、TIPSも恩恵を受ける。
次に、インフレが再燃する場合、名目債や現金は打撃を受ける。
その場合もTIPSは打撃を受けにくい。
最後に、TIPSのリスクについても触れておこう。
リーマンショック時、TIPS利回りが急騰(つまり価格が急落)したことがあった。
一次的なスパイクであり、その後は低下(つまり価格が回復)している。
極度の危機の場合、どんな資産クラスであっても一時的に価格が下落する可能性は避けられない。
(同時期の金価格も一時下落したことを記憶されている人は多いだろう。)
また、仮に世界がデフレ/ディスインフレに回帰するなら、TIPSは名目債をアンダーパフォームするだろう。
デュレーションの選び方にもよるが、TIPSは待機資金の置き場所として一考の余地があるかもしれない。
もっとも、米ドルに関する限り(利下げが進まず、インフレも上がらず)MMFで実質利回りが得られているうちはそう悩む必要もないのだろう。