一部でバズっている物価連動債、みんな本当に理解しているの?(債券投資の基本)

くどく繰り返すと、ここでの「リスク」とは上下へのブレのことであり、決して悪いことばかりを示すものではない。

リスクと取ることは損をすることではない

例えば、市場が織り込むインフレ(期待インフレ)より実際のインフレが低くなると予想し、実際にそうなるなら、物価連動債より名目債に投資すべきだ。
逆に、期待インフレより実際のインフレが高くなると予想し、実際にそうなるなら、物価連動債が正しい選択となる。

このことを理解していない投資家は意外と多い。

日本では規制金利の時代が長く、私たちの前の世代では、お上が決めた金利で預金をしておけば報われる状態が長く続いた。
(預金金利はそこそこ魅力的で、イールドカーブも十分傾けられていた。)
このため、今でも国債についてお上が魅力的な利率を設定すべきとの甘っちょろい考えが存在する。

物価連動債についても、これに投資しておけばインフレにかかわる苦痛から逃れられるかのような誤解が存在する。
実際には物価連動債は(特に名目債との比較において)

  • 期待インフレより実勢のインフレが上がる場合に苦痛がヘッジされるが
  • 下がる場合の果実は放棄されている

だけなのだ。

現在、日本の債券市場が織り込むインフレ期待(ブレークイーブンインフレ率)は5年、10年のホライズンで見て2%近傍にある。
あなたが5-10年の国債を買う時、この先のインフレが2%より

  • 下がると信じるなら名目債を
  • 上がると信じるなら物価連動債を

選ぶのがむしろ合理的なのである。

仮に、この先のインフレが期待インフレどおり2%程度で推移するなら、名目債でも物価変動債でも違いはないことになる。
名目債ではあらかじめ2%がクーポン(債券の利率)に含まれていて、物価連動債ではインフレによる調整のところでプラスされることになる。

日本の国債(名目債・変動金利債・物価連動債)に魅力がない本当のワケ

実際の投資先をもう少し具体的にイメージしよう。
弊社は昨年、米国については物価連動債が選択肢になりうるとの見解を述べた。
(ただし、米物価連動債でも、米ドル安のリスクまではヘッジできない。)
一方、日本については物価連動債を選択肢とは考えていない
この違いはどこにあるのか。

それは、名目債であれ物価連動債であれ、実質利回りが低すぎるものには投資しにくいということに尽きる。
米国の場合、名目債の利回りは期待インフレ率より十分大きくなっている(実質利回りが十分にプラス)。
したがって、物価連動債利回り(つまり実質利回り)も十分にプラス圏にある。
だから選択肢になりうる。

一方、日本の場合、名目債利回りは相当に長期でないとプラスにならない。
短期・中期ではマイナスで、長期でもかろうじてプラスになるにすぎない。
これは、お金を貸しても、それに対する報酬がほとんど得られないか、あるいはマイナスになるということだ。
だから、日本の場合、名目債であれ物価連動債であれ投資対象とはなりにくい。

いやいや、多くの金融機関(銀行、年金、保険)が日本国債を買っているではないか、という声もあろう。
しかし、彼らが日本の債券を買える理由は一般の投資家とは異なっている。
これら金融機関は煎じ詰めればサヤ取りのビジネスだ。
金融機関は債券利回りより低い調達コストで投資家・加入者・契約者からお金を預かっているから、絶対的な利回り水準の低い債券にも投資できる(つまりサヤが抜ける)のだ。
また、リスク分散やリスク量の抑制のために、ある程度の割合で債券を入れざるをえないという事情もある。
(だからこそ、彼らは投資家・加入者・契約者に対して返すリターンの率を市場金利より低く抑えている。)

少々ややこしい話をしたが、読者がこの内容を理解できたなら、
 物価連動債に投資できれば心配はなくなる
などといった短絡的で誤解に満ちた話を口にしなくなるだろう。

(ちなみに、物価連動債については笑えない落とし穴があるという話もある。
政府が高インフレを隠したいなどの理由でCPIを低く操作するという心配だ。
仮に物価連動債の調整係数を計算するCPIが低く操作されれば、物価連動債の魅力はその分低くなる。)

名目債、変動金利債、物価連動債は、広義の債券市場を通して、そのどれが得どれが損とはならないよう連動している。
この連動が著しく阻害されない限り、これら間に大きな損得の差は存在しないと考えるべきだ。

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