一部でバズっている物価連動債、みんな本当に理解しているの?(債券投資の基本)
なぜ、日本の国債(名目債、変動金利債、物価連動債)に魅力がないのだろうか。
本質的な問題は、それぞれの製品設計にあるのではない。
魅力的な利回りとならない主因は金融抑圧
もちろん日本経済の低い潜在成長力も重大な要因だ。
しかし、それだけでは(特に短中期ゾーンにおいて)ここまで低い実質金利の説明にはならないだろう。
本当の問題は、日本の金融政策に強い緩和バイアスがあり続けていること、とりわけ過去十数年の間、金融抑圧が続いており、この数年高インフレであるにもかかわらず今も続いているためなのだ。
(これはまた、昨今の円安のファンダメンタルズ要因である。
今や日本円の実質実効為替レートは1970年頃の水準まで円安側に戻っている。)
ジョセフ・スティグリッツ教授は、実質金利を実勢より低くすることを金融抑制、マイナスにすることを金融抑圧と定義した。
日本は外需産業を支えるために長く金融抑制を続け、異次元緩和以降は金融抑圧に突入した。
最近では財政従属を指摘する声も少なくない。
それが抑制であれ抑圧であれ、投資家からすれば、うべかりしリターンが削られている状況を示している。
この状態に対し円の世界で暮らしている人たちはどう対応したのか。
ある人は、それでも円の預金や債券に留まり続け、自ら資産の価値の一部を国に消極的かつ実質的に納税してきた。
ある人は、さまざまなリスク(信用リスク、株式のリスク、為替のリスク、・・・)を取ることで、資産の価値の下落を回避しようとした。
リスクカーブを昇っていけば、確かにリスクテイクとともに期待リターンは上昇するし、結果的に実際のリターンが上がることも多かったろう。
しかし、それはリスクテイクに対する当然の報酬であって、リターンが上がったからといって金融抑制・金融抑圧により削られた報酬が戻ってきているわけではない。
(ただし、特にリスク資産においては、実勢より低い金利による資産価格上昇の恩恵は受けている。
仮にそうであっても、長い目で見ればあまり喜ぶべきことではないかもしれない。
金利が下がっていることだけをとればリスク資産の価格の上昇要因となるが、金利低下が行きついてしまうと必ずしもそうは言えなくなってくる。
資産価格上昇が将来のリターン率にとって不利に働くためだ。
(それは経済においても言えることで、長すぎる低金利は潜在成長率を押し下げかねない。)
ファストマネーは先行者利益を享受するが後追いでは恩恵を受けにくくなっていくのは投資の世界の常である。
さらに金融抑圧・抑制が解かれる段階では逆回転の力が働くことになる。)
「リスクフリー」の持つ残酷な意味
では、投資家が日本国債から受け取るべき適正な報酬とはどのようなものなのか。
日銀の金融政策が完全に正常化する、つまり、日銀の政策金利がインフレと擦り合い、かつバランスシートが元通りになった時、市場が自ら決めるであろう市場のリターンである。
実現までの道のりは相当に長い。
日銀のETF・REIT売却を見る限り、完全な正常化まで100年かかっても驚きではない。
人生を考えれば、もはや正常化しないと考えるべきだろう。
異次元緩和がライフサイクルで見て得だったか損だったかはすべてが終わるまでわからない。
この政策はそれほど大きな不確実性、あるいは潜在的コストをともなうものだった。
ルール通りに決められたのだから皆で背負っていくべきことだが、私たちはせめて自らを守る努力を忘れないようにしたいものだ。
名目債であれ、変動金利債であれ、物価連動債であれ、それらは市場を介して損得のないような均衡に近い状態に保たれている。
日本の国債に魅力がないのは、個々の商品設計のためではなく、国債市場の価格決定が(金融政策、とりわけ日銀の資産保有によって)投資家に不利な水準に維持されているためだ。
そして、そうした水準が長く維持されているがゆえに、国債価格が下落する代理として円が売られている。
実務上は日本国債を円のリスクフリー資産の代理として用いる扱いが一般的だ。
しかし、ここでの「リスクフリー」にはとても後ろ向きな意味合いがある。
金融抑圧がある限り、
日本国債はリスクなく高確率で負けるための投資対象になっている
という意味合いだ。
繰り返しになるが
- インフレと金融抑圧の下で名目債に投資したからといって、100%損をするわけではない。
実際の実質金利・インフレが市場の織り込む実質金利・インフレより低く推移すれば、キャピタルゲインが得られるかもしれない。
しかし、仮に金融抑圧なかりせば、もっと高いリターンが得られたはずだ。 - インフレと金融抑圧の下で変動金利債に投資したからといって、100%損をするわけではない。
しかし、仮に金融抑圧なかりせば、もっと高いリターンが得られたはずだし、変動金利債の利率はそもそも10年債より低く抑えられている。 - インフレと金融抑圧の下で物価連動債に投資したからといって、100%損をするわけではない。
実際の実質金利が市場の織り込む実質金利より低く推移すれば、キャピタルゲインが得られるかもしれない。
しかし、仮に金融抑圧なかりせば、もっと高いリターンが得られたはずだ。
最後に、ほぼすべての投資が、結局は投資家が当然に求めるリターンを(平均では)得られない現実に触れておこう。
仮に、金融抑制・抑圧がなく、かつ株式でも債券でもリスクに対し適正なリターンが与えられたとしても、最後に税金が待っている。
リターンが大きくなればなるほど、約2割の税金が重くのしかかる。
仮にリターンの源泉がインフレや円安である場合、私たちはインフレや円安のマイナスを(平均において)ヘッジすることはできないのである。
