【書評】日本経済を襲う二つの波

野村総研のリチャード・クー氏がリーマン危機直前の2008年6月に上梓した著書。
「バランスシート不況」と呼ぶ日本の長い不況について詳細に分析されている。

クー氏はバランスシート不況が(2008年の段階で)最終局面にあると見ていた。
逆に言えば、まだ終わっていないと見ていたことになる。
この状況は、いまだ変わっていないと言えるだろう。
今、完全に脱出できるかどうかがアベノミクスに委ねられている。
麻生財務相のブレーンとされるクー氏の主張は、財政政策が重要というものだ。

当時、クー氏は極端な量的緩和には反対していた。
政治家や学者からの批判に負けず、日銀(福井、速水、白川総裁)が節度を守ったことを高く評価している。

クー氏はこう書いている。

もしもクルーグマン流の200-300%のインフレの話に当時の日銀が乗っていたら、今の我々の生活は滅茶苦茶になっていただろう。
下手をすれば、日本円は紙屑になり、その混乱から日本のGDPも半分ぐらいになっていたかもしれない。

「200-300%のインフレ」という話は、恥じることもなく無責任に発言するノーベル賞学者ポール・クルーグマンらしい提案だ。
これはアベノミクスとは程度が大きく異なる。
しかも、2008年6月末のドル円は106円と今より円安だった。
日本の現状は引き続き悲惨な状態だが、クー氏の言を信じるならばひとまず安心していいようだ。