【書評】日本経済「成長」の正体

ミスター円こと青山学院大学の榊原英資教授による経済・政治にかかわる著書。
日銀の追加緩和の直前の10月28日の発行。

タイミングが不運だった。
本書の執筆はかなり前だったろうから、榊原教授のドル円予想は110円予想となっている。
ミスター円としては痛恨のタイミングだったろう。
それはお愛嬌として、本書のその他の論点には傾聴の価値がある。

この本は世間で「通説」とされている広範な命題について、偏見や誤解が含まれていると切っていく。
すべてのポイントについて榊原教授の意見が正しいとは言わない。
しかし、絶対的な正しさではなくとも、一面の正しさは必ず含んでいる。
語られ方も、見出しとは違って、意外と是是非非で議論されている。

一方の問題点は、マンネリの内容だということ。
この筆者の作品はほとんど目を通していることもあり、新鮮味がない。
お話をしたことがないので想像になるが、この方は優秀で的を外さない反面、自信家で頑固なのだろうと思う。
正しいのだから罪はないが、考えを簡単に変えることがない。
年数冊のペースで出版されており、おのずとどの本も似たような話が出てくることになる。

良くも悪くも編集者が活躍した本だろう。
テーマごとに通説とそれに対する反論という形でまとまっており、これまでの著書にないわかりやすさがある。
榊原英資教授の考えを短時間で知りたいならもってこいの本だ。