【書評】経済の大転換と日本銀行

出口で起こりうる3つの災難

翁教授は金融正常化で3つの問題が生じうると言う:

  • インフレの行き過ぎ
  • 財政の持続可能性と2%インフレ目標の両立が可能か
    目標とするインフレが実現すれば、金利もまた上昇するだろう。
    その時、国家財政は、利払い負担の増大に耐えられるか。
  • 債券価格下落による日銀の損失
    インフレ目標の達成で金利が2%上昇すれば、日銀の(資本+引当金)の4倍に当たる債券評価損が発生するとの試算がある。

高橋是清の失敗期と似ている

翁教授は安倍首相が「私を勇気づけてやまない先人」と呼ぶ高橋是清の財政政策についても前・後期に分けて言及する。

  • 前期
    国債を日銀が引き受け、不況脱出に寄与した。
    日銀はいったん国債を引き受けたが、徐々に金融機関に売却(売りオペ)し、財政ファイナンスを回避した。
  • 後期
    国債発行による財政膨張の歯止めがかからなくなり、引き受けた日銀による売りオペが困難になっていった。
    結果、日銀は引き受けた国債を抱え込むこととなり、財政ファイナンスとなった。
    高橋蔵相は悪性インフレを懸念し、財政再建に舵を切った。
    軍事予算削減にも手をつけた高橋は2.26事件で殺害される。

翁教授は異次元緩和を、高橋財政末期の財政ファイナンスに近いと言う。
安保法案が可決された今、軍事費拡大が進む可能性は否定できない。
それが財政ファイナンスで賄われるとすれば、高橋財政末期との類似は高まる。
唯一異なるのは、高橋は軍事費削減の立場を取ったこと。
一方、現在は、量的緩和と軍事活動拡大を推し進めている人が同一人物だ。

金融抑圧の不均衡が為替に与える影響

最期に、翁教授は金融抑圧についても言及する。

金融市場のグローバル化により、中央銀行が金利を低め誘導することによる一国単独の金融抑圧は、以前に比べるとはるかに困難になっている。
例えば、米国で金利を正常化させる環境が整い、金利を徐々に上げていった場合、日本が低金利を維持すれば、資金は海外に流出するだろう。
これは円安をもたらし、資本流出の加速とインフレ高進で経済を不安定化させかねない。

そこで、何らかの強い資本規制が敷かれるのではないかとのカーメン・ラインハートの意見を紹介している。

とても大きなタイトルを背負った本だ。
中身も濃密で、著書の魂の叫びを感じる。
それでいて、つとめて冷静な議論が努力されている。
異次元緩和の出口を見通そうと言う時、日銀のタクティクスまで含めて、広角な視野を与えてくれる本だ。