【書評】東京五輪後の日本経済

希望が見いだせない不動産市場

さらに、白井教授は主要な資産クラスについても見通しを述べている。
ここでは、不動産市場に対する言及を紹介しよう。

「オリンピック開催による景気浮揚効果は、開催1年前にそのピークを迎えるケースが多いようです。
・・・東京都心部などでは・・・適正な水準とはいえないほど価格が上昇しているケースもあります。」

不動産価格を下支えしてきた異次元緩和がオリンピック前後に出口に向かえば、不動産市場の調整も免れえないと予想している。
「果たして希望はないのでしょうか?」との自問に対し、「現段階では、それをほとんど見いだせない」と自答している。
なんとも潔い弱気予想である。

財政刺激策と財政悪化に注目

最近の世の中の金融政策についての議論を見ると、1つの特徴が見られる。
かつては、金融政策は経済安定化政策(あるいは、構造改革まで含めた3本の矢)のスターであったが、最近ではそうではないらしい。
金融政策でやれることは(効用が逓減しきるまで)やり尽し、副作用は怖いが、かといってすぐに巻き戻すわけにもいかない。
中央銀行がバランスシートを膨らます異常事態は相当に長い期間続きそうだ。
この状態がカタストロフィーでも起こさない限り、金融政策は(いい意味でも悪い意味でも)退屈な時代に入った。

例外が米国だ。
理屈に合わないような財政刺激策が打たれたことで、FRBは金融政策正常化のための千載一遇のチャンスを得たのだ。
逆に言えば、世界経済が同時拡大していた昨年まで、FRBをしても正常化の足取りはのろかった。
たとえ経済が良好でも、それだけでは金融政策正常化はなかなか進められないものなのだろう。
だから、財政政策が注目されることになるが、それは同時に財政悪化の問題をクローズアップさせることにもなっている。

IMFが日本をひいきするワケ

白井教授は、IMFが数年前まで財政の目安としていた政府債務対GDP比率についての種明かしをする。
各国に「60%程度」としていたのに対し、日本には「200%」という寛容な基準を適用していたという。

なぜかというと、IMFは日本に対してもはや、他国のように、『いつ、どのように財政再建が可能となるか』を考える段階ではないと判断しているからだと思われます。
それよりも、日本に対しては、『いつ、どのように、財政再建できないことによる問題が顕在化するのか』にIMFの関心は移っているように見えます。

かつてIMFでエコノミストとして従事された教授の読みは当たってしまうのだろうか。