【書評】金利と経済 – 高まるリスクと残された処方箋

日銀で金融研究所所長などを歴任した翁邦雄 京都大学教授による金融・財政政策の総括と見通し。
見返しにある「金利操作に期待されるのは、『トレンドへの働きかけ』か『経済の安定化』か」という言葉が印象的だ。

The Financial Pointerや浜町SCIコラムをご愛読いただいている皆さんにはぴったりの本だ。
ここで紹介した様々なエコノミストの主張の多くが、時系列にそって紹介・解説されている。
一つ一つの記事が点とすれば、本書はまさに線であり面である。
トップ・エコノミストが解説し、妥協なく論評を与えていることが頼もしい。
世間にはびこるえせエコノミストのような騙しはもちろんない。

点が線・面になる例を挙げれば、たとえばポール・クルーグマン教授の日本への提案だ。

  • 1998年無責任になる約束を提案した。
  • しかし、ローレンス・サマーズが言うように趨勢的停滞ならば、将来のインフレ期待を喚起できない。
  • 結果、爆発的な財政政策が有効と宗旨替えした。

本サイトではクルーグマン教授の主張を時点ごとに紹介してきた。
翁教授は、こうした議論を一つの物語として語り、経済のメカニズムを読み解くのである。

期待にも結び付かない「やってる感」

本書ではさまざまな論点について丁寧に検討・説明がなされている。
いくつか例を挙げれば:

  • 異次元緩和で円安が起こり、マイナス金利で円高が起こった本当のワケ
  • ヘリコプター・マネーにはコストがかからないという迷信
  • 財政破綻を回避する2つの方法

終章では、翁教授の怒りが見て取れる。
安倍首相の「アベノミクスっていうのは『やってる感』なんだから、成功とか不成功とかは関係ない」(『政治が危ない』御厨貴ほか)との発言を引き、こう断じる。

「これ以上、大規模なマクロ経済政策で一発逆転的な成功を狙うべきではない。
ただ、『やってる感』を醸成する政策だけでは、日本経済の隘路は解消しない。」

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